自己紹介僕らの時代2

仕事はじめの朝は何時も事務所前の長いすに座ってインスタントコーヒーを飲みながら、若い二人は自然と目の前を行く女子社員を目で追っていた。その中に中谷の気になる子もいた。

中谷なに見てんだよ、気になるのだったら早く声を掛けろよは中谷をけしかけた。

そんな娘いませんよ中谷は、狼狽えた。

は中谷にそんな勇気の無いことをしっているので、それ以上中谷を冷やかさなかった。

今日の仕事の割りはは作業の分担を聞いた。

会社でも二人の関係に変わりはなかった。中谷が作業予定表を見てに答えた。

3607のペイントです

今日は体中シンナー臭くなるから、帰りは交番の巡査の職質に気をつけようよ

機体塗装は一日掛かりになる。一日ペンキ塗りをしていると、体はもちろん肺の中までシンナーが充満してしまうので吐く息もシンナー臭がする。

町の出入口にある交番は頻繁に酒酔い違反の検出を行っていた。信号で止まると巡査が片端から職質を行い、疑わしい運転者にはアルコール検出器を使用して有無を確かめる。

達も職質を受けると、警察官に酒酔い運転の疑いを掛けられた。アルコール検知器で調べられるがアルコール反応は出なかった。

トランクを開けて下さい二人と同年代の巡査の言葉は丁寧だが疑いの目を隠さなかった。

これはなんですかトランク内にあった電線を指して先ほどとは一変した態度で質問してきた。

車のエンジンを始動するためのブースターケーブルです。バッテリーでエンジンがかからなかった時に使用するのです巡査は納得しなかった。

交番まで来てくれませんかほとんど強制だった。

交番にいた他の巡査と車内が捜索された。スバルの車内は内張りも絨毯も無かったので一目で車内の状況を知ることが出来た巡査は一言いった。

良いですよ。行ってください

巡査の態度に腹立たしさを抱いたが逆らわなかった。

何時もの巡査ですね中谷がに不満げに話した。

あいつ俺たちが気に入らないのだろうがはき棄てた。

事情を説明してもなかなか解放されず、集まった人から乗っている車と相まって好奇の目を向けられることも度だった。

ちゃん今日の天気だったら、リターダーを何時もより多めにしましょうか

その日の天気に合わせて、ペンキの乾燥時間を調整する必要があるため中谷がに相談した。

そうだね、ちょい多めね

は乾燥時間を遅らせることにした。

二人は気体の横に並んで前方からペイントガンを左右に動かして左右に分かれて塗り始めた。こうするとペイントガンの吹き返しの継ぎ目を無くすことができる。二人の塗るペイントは、ラッカー塗装とは思えない程の艶と光沢を出した。反面、乾燥時間は2倍は掛かった。夕方が来ると腹をすかせた中谷が食事の心配をした。

ちゃん夕飯は青翼にしますか

他にこんな臭いじゃ行けるとこないじゃん

青い翼は調布飛行場のもう一軒の食堂で、こちらは使用事業航空関係者が集まる食堂だ。建物は事務所建物の集まったロータリーの真ん中にあり、ここは唯一の二階建ての建物で入り口にドアーもついていた。飛行場を訪れる多くの人が利用するので、業界のサロンになっている。この食堂の親父は、元ヘリコプターパイロットだ。農薬散布で、長年日本中を飛び回ったことがある。

墜落歴も2回あり翌日には何事も無かったかのように調布に現れ、皆を驚かした。

親父定食2つここはが注文した。親父の悪態が中谷にはきっかったからだ。

馬鹿コンビか、定食しかくわねーな

無理ですよ。中谷なんかこの三日間、袋ラーメンだったんですから、社長に言って下さいよ

中谷村がペコリと頭を下げた。

お願いします

二人は揚げ物だらけの定食を食べながら、今度の日曜日にある模型飛行機の競技会の話をした。

中村、今度のラットレースどうする

もちろん出ます。ちゃんはどうするのですか?

俺はエンジンも、機体も、新しい奴で出るよ。今度組み立てたエンジンが良くできてさ

どのぐらい回りますか

14200位かな

それは回っていますね。良くて13000ですからね

二人のコントロール歴は、小学6年の時からで周りの不良の半分がやっていた。殆どがすぐやめるので、道具は彼らから幾らでも手に入った。商店の息子が多かったので、小遣いは豊富だった。2サイクルの模型用エンジンは、その外形からは想像も出来ないエキゾーストノートを、近所中に響きわたらせた。

飛行は15の鋼鉄製のワイヤーの先に、小型エンジン付き模型飛行機を接続して飛ばすもので、その音は1キロ離れていてもはっきり聞こえた。

戦後世界的に流行りだした趣味だが、日本には進駐してきた米兵が、野球と共に盛んにした遊びだ。国産のエンジンが出てきたことによって、日本人にも手が出せるようになった。

米兵が好んだのはコンバットといい、二機が紙テープを付けて飛び、互いにテープを斬り合うものだ。